思い出し、防空壕の方へ戻つて行つた。久保も私の後ろからついて來た。
貴島と杉田も、居なくなつていた。壕の中かと思つて、のぞいて見たが、ロウソクの灯が誰も居ない壕の内側をボンヤリと照し出していた。そのロウソクを取り、壕の周圍をしらべまわつたが、やつぱり見えない。
「……どうしたんだろう?」
「そうですね……」
ユックリ言いながら、久保は、先きほど貴島と杉田が倒れていた個所へしやがみこんで、そこの草を右手で撫でていた。その右手――まるで野球のミットのような感じのする、いつか私の見さされた、熔鐡の飛びついた跡がボツボツとえぐれている手いちめんが、ヌラリと血だつた。先程、男を刺した時に附いた血か、そこの草に附いていた血か、多分兩方だつたろう。やがて彼は、わきの、血に濡れていない草の葉をひとつかみ、むしり取つて、手の血を拭きはじめた。その手つきや、全體の態度が、いつか見た炊事をしている時と全く變らない。ユックリと落着いたものだつた。顏もいつもの顏だし、眠いような目だつた。考えて見ると、貴島を傷けた者を刺して、言わば貴島のために報復したわけだが、そのことからの昂奮はもちろん、喜こびのようなもの
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