に、貴島が急に荻窪に歸ると言い出した。とんでもない、横濱に居てもこれだけ危險なのに、荻窪などに歸る手は無いと反對されたが、貴島はきかなかつたようだ。黒田策太郎が「よかろう。案外に、國友の方じや、まさか荻窪に現われたりはすまいと思つているだろうから、二三日居て見るさ」と言つたという。それで、昨夜おそく横濱をのがれ出してここに來た。終始、貴島自身は、なんの危險も感じていないふうだつた。度胸がすわつているからと言うような事ではなく、危險を感じる氣持がマヒしてしまつているような所があつた。この壕を遠卷きにして國友の部下らしい者の數人がウロウロしているという事を、久保が話してない筈はないし、杉田の見張りも、そのためのものだろう。だのに、今日の晝も、杉田がチョットゆだんをしている隙に、貴島はフラリと壕を出て、そのへんを散歩して來たりしたようだ。「まつたく、じようだんじや無えや!」と杉田が言つた。
 しかし貴島はニコニコしながら、そんな事はほとんど耳に入れていない。そうして、何かしきりに私に話したそうにしている。先きの手紙の事から推すと、Mの事らしい。それで質問を待つようにしていたが、彼は言い出さな
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