ているだけで、自分からはほとんど語らず、買つて來たハムを切つたりしている。
「惜しいなあ、雜誌屋さんが今夜居ないのは!」杉田が言つた。「共産黨かなんか知らねえが、あの佐々さんと言うのは、おもしれえ男だあ。いや、あたしなんざ、あの人からしよつちうやつつけられていますがね、それはしかたが無いさ。人間、ツラがちがつているように一人一人向き向きがありますからね。佐々さんは共産黨で、あたしは商賣人。仲良く出來ねえと言う法も無いですからね。ハハ。こんな晩にブタ箱なんかに、くらいこんでいる法は無いや。みんなこうしてそろつているつて言うのに。要領よくやつて、ヒョイと戻つて來ねえかなあ」
 言われるまでもなく、佐々兼武が居合わさないのは殘念であつた。彼が居れば、また議論であろうが、しかし酒宴は更に愉快なものになつていたろう。
 貴島も杉田も、横濱を引き上げて此處へ戻つて來た事情については、ほとんど語らなかつた。しかし、酒杯の間にチラリチラリと取りかわされる短い言葉から大體の樣子は察しられた。黒田組と國友の方の連中の關係が益々緊張して來て、横濱かいわいに貴島を隱して置くことが不可能になつたものらしい。そこ
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