みると、なるほど「貴島が居ない」と久保が言つたのは染子に對してであつて、私に答えたのではなかつた。……ヤレヤレと思いながら私は貴島の顏を見た。
貴島も私を見てびつくりしている。入つて來たのは久保と杉田の二人だけと思つていたらしい。
「ああ、三好さん…………」と低く言つて助けを乞うような眼色で、チラッと久保の表情を探るようにした。イタズラをして逃げかくれていた子供が、母親に見つけ出された瞬間のような、眞劍におびえた樣子があつた。それには私のがわに原因が有つたのかもわからないとも思う。貴島の姿を發見した瞬間、私は壕の中に立ちはだかつて、彼を睨みつけていたかも知れないのである。不良少年を弟に持つた兄の怒りに似た複雜な氣持を味わつていた事は事實だ。……私よりも上背のあるガッシリとした貴島の姿が、私の前で急に小さくなつてしまつて、オドオドと私を見あげた。しばらく會わない間に、目立つほどに痩せ、かねて青白い顏が、更に紙のように血の氣を失つていた。
「……すみません。御心配かけて――」
そう言つて頭をさげた。襟足が女のように細くなつている。見ているうちに、どう言う加減か私は不意に涙が出そうになつ
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