子に代つてもらつて、拔け出して來たんです。どうすればいいんでしよう、先生?……」
話の内容が、キワドイ感じを與えていることなどに全く氣が附いていない。涙ぐまんばかりに眞劍なのだ。眼のふちが紅潮し、コメカミの邊は、青白く、ふくれた靜脈がすけて見える。……私は劇作家としての職業上、そんなふうな劇團にも出入りしたことがあり、内部のありさまも以前は知つていた。それは普通世間で思つているほどビンランしたものでは無いのだが、終戰後、そういう事になつた所もあるのか? チョット信じられないけれど、しかし、戰後の一般の世相から推して考えると、所によつてそんなこともあるのかも知れない。……とにかく、それまでヤンチャな子供の話を聞いているように輕い氣持で微笑して居れたのだが、だんだん、いいかげんな事は言えなくなつた。貴島も默々として、ルリの横顏を見ている。ルリは、しかし、子供らしく熱して、詰め寄らんばかりになつて來た。
「……そんなにそれがイヤなら、しかたが無いから、劇團をやめるわけに行かないの?」
「行かないのよ、それが。やめてしまえれば、こんな苦しんだりしません。新劇などに行けば生活費は出ないでしよう
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