えないし、モンペをはいているようです。するうち、女が歩き出して顏の七分ばかりがチラッと見え、僕はハッとしました。ルリさんでしたそれが。いや、ルリさんだと思つたのです。今から考えますと、ちがつていたような氣もします。ルリさんがあんな所に立つているわけがありません。佐々の話ではルリさんは僕の事を非常に憎んでいるということですが――そうです、僕があの晩ルリさんにした事を怒られるのは當然かもしれませんけれど、そんな憎まれるほどひどい事をしたおぼえは無いのです。いずれにせよ、こんな所まで僕を追つて來る道理がありません。
 しかしその時はたしかにルリさんを見たと思いました。して見ると僕の心の底でルリさんを忘れきれないでいたのかも知れません。
 その女はすぐに角から消え去つてしまつて、二度見直す暇は無く、確かにルリさんであつたかどうかを確かめることはできませんでした。
 結局はそんな事もどうでもよい事です。あれがルリさんであつたとしてもです、この僕とは縁もユカリも無い人です。別の世界の人です。
 僕はただこうして船の動きに搖られながら雨の音を聞いています。すべてが僕にとつてなんでしよう。僕はゴロツキ
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