ら、私はそいでも、まだ以前よりもこの方がいいつて言つてるんです」
「そりや、君など戰爭をくぐつて來たと言つてもズットまだ子供だつたしね、言わば、戰爭後に生れ出した、つまり一番新らしい人たちとも言えるんだからね。それに、以前の君の家が家だつたし―」
「そうよ! 今だつて、先生、あんな燒け殘りの防空壕みたいな所に住んでいるくせに、お母さまなど、人が訪ねて來て、すぐそこの鼻の先きに立つてるのを見てながら、フフフ! お姉さんか誰かがお取次ぎをしてからでないと、その人と話しをしようとはなさらないの! まるで、キチガイ病院! ハハ!」
「そうかねえ」
「ところで先生、御相談があるんですの。もうすぐ今夜つから私困るんですから。私、自分の心をハッキリきめて置かないと、どうしていいか、わからないの。とても、とても苦しくつて。私、死んでしまおうかと思う事があるんです」
それをしかし、浮き浮きと、言う。
「……なんだね?」
「ですからさ、はじめ申し上げた……ザコネ」
「……舞臺でやらされるのかね?」
「あらあ、舞臺でなら、どんな事をやらされたつて、もつとスゴイことやらされたつて、私、平氣だわ。ヘーイチャラ
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