「小松薫……さあ、知りませんけど――」
 もうスッカリ夜になつていた。夕飯のことを私が言うと、ルリは、すまして來たと言うし、貴島もひるめしがおそいので食べたくないと言うので、私だけ中座して夕飯を食べることにした。居間の方で私が食事をしている間、二人の話し聲がし、ルリの笑い聲もきこえて來た。私がもどつて來て見ると、二人は壁のそばにピッタリと寄り添うようにして笑つている。後から思うと、それがチョット妙だつた。しかしその時には、べつになんとも思わなかつた。ただ、そうしている貴島が、ほとんど別人のように快活になつて、顏のツヤまで良くなつている。
「そりや、あたしには、むずかしい理窟はわかりませんわ。戰爭の善し惡しだとか、日本が負けちやつたことにどんな意味が有るかとか、わからないの。ただこんなふうになつたおかげでオイラは、だな――あら、ごめんあそばせ。わたしたち、こんなふうになつたおかげで、自由になつたことは事實。それがうれしくつてしようが無いんですの。それだけだわ。それでいいんじやないかしら?」
「なんの話?」
「いいえ、貴島さんがね、こんなふうになつてしまつて、どうしようもないとおつしやるか
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