くようにして「はじめまして」と、茶の湯ででもしこまれたらしい、スラリと背を伸ばして辭儀をした。そのくせ、下げた頭をまだ上げないうちから、クスクスと笑い出している。
「しどいわあ! 先生、なんにもおつしやらないんだものう!」
「だつて、――入つてくるなり、いきなりだもの、こつちから何か言う間は無い――」
「ですけどさあ、ほかにどなたも居ないと思つたもんだから私――」
「いいさそりや、ねえ、貴島君。今どきの戰爭歸りの若い者が、ザコネぐらいにビックリはしないだろう」
「あらそう、貴島さん?……」と聞いたばかりの名をすぐに呼んで青年の顏をヒタと正面から見て、
「いつ歸つていらしつて?」
「はあ、去年の暮れに……」貴島はまだ顏を赤くしていた。
「どの方面ですの?」
「……自分はオキナワです。はじめ南方にいて、それから六月ごろオキナワにまわされて――」
「南方にいらしたんだつたら――南方と言つてもいろいろでしようし、薫のいたのがどこだかハッキリしないけど、南方なら、もしかして、小松と言つて――イトコですの、私の。學徒出陣で戰車部隊とかつて――もしかして、ご存じありません? 小松薫と言うんですの」
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