す。
 しかし、その前に、チョット、綿貫ルリさんの事を書いて置きます。この前佐々が此處に來た時に、あなたが、しきりと「貴島君はルリに一體どんな事をしたんだろう?」と氣になすつていたと言いました。それなのです。あの晩のことをチョット話して置く必要があると思うのです。

        19[#「19」は縦中横]

「と言つても、實に簡單な話なんです。あの日、あなたの所でルリさんに初めて會つた時は、ただ勇敢な女の人だと思つただけで、特別な氣持は起きませんでした。普通の若い娘としては、かなり變つた所がありますが、しかし、變つた女なら、ほかに僕はいくらでも知つているのです。ですから、かくべつ、親しくなりたいなどとは思わず、あなたがたの會話を傍聽していました。
 僕が不意にあの人に引きつけられるような心持になつたのは、あなたが食事をしに中座されてからです。と言つても、あの人と僕との間に特別の話が出たりしたわけではありません。それまでの話題であつたR劇團のことなどを話しただけです。あの人はR劇團の男の連中のダラシなさの事を手を振つたりして話しながら、僕の方にだんだん寄つて來るのです。夢中になつて、
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