横の方から僕の肩を押すようにして身體を寄せて來ました。見ると小鼻や口のわきに細かい汗のブツブツを浮かせています。
 僕は壓倒されるような氣がしました。なにか、いじめられているような氣がしました。すこし息苦しくセツないような感じでした。後から思うと、その時に、僕はルリさんに、引きつけられてしまつたらしいのです。しかしその時にはあの人からいじめられているよう氣がしたのです。僕は、小學校の二年か三年の時分、遠い親戚の節ちやんという、僕と同じ年の美しい女の子から、誰も居ない應接室のソファの所でおさえつけられて泣いたことがありますが――僕はそのころ弱蟲の少年で、節ちやんと言うのは、僕より力の強い、オキャンな子でした。――その時の事を僕は思い出しました。
 そのうちにルリさんは僕の困つているのに氣がついて、自分でもビックリしたようで、暫く默つて僕を見詰めていましたが、やがて笑い出しました。僕も笑いました。それから間も無く、あなたが戻つて來たのです。
 あとの事は、あなたも御存知の通りです。そしてルリさんも僕も歸ることになり、あなたからルリさんを送つて行つてあげたらと言われ、僕は、うれしい氣持がしま
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