ものですから。
 先日あなたにお目にかかるまで、あなたの事を僕は好きでも嫌いでもありませんでした。そして、お目にかかつて、僕があなたの前で泣いた時に、あなたは一言も言われず、ただ怒つたような顏をして、だまつていられました。僕に同情したり、僕を慰さめてくださつたりは、なんにもなさらなかつた。僕は實にホッとしました。そのためか、僕は、あの數十分間、ホントに、久しぶりに、シンから泣けました。もうどんな事をしても救われる見こみの無い、暗い暗い穴の中で泣きました。あなたは一言も、僕を慰さめたり同情したり勵ましたりするような事は言われませんでした。そういう顏つきもなさらなかつた。ただ、怒つた眼をして、僕を睨みつけていられたのです。
 それで僕はあなたが好きになつたのです。「好き」と言うのは、たしかに、當りません、あなたには冷たい所があります。きびし過ぎるところがあります。人を突き放すところがあります。すがり附いて行くと、叩きつぶされるような所があります。ですから、メソメソしたような氣持で好きになつたりは、できない人です。すくなくとも僕には、そんな風な人にあなたは思えます。ですから僕には、あなたが良
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