した。自分の思うことの四分の一も口では言えないのです。馴れていますから、別に苦しくはありませんが、人に對して惡いなと思うことがよくあります。
 文章に書いても完全には表現できませんけれど、でも、口で話すよりは、すこしましです。
 今、ヘンな所にたつた一人で居りまして、誰からも邪魔されません。危險があるので、外へ出て行けないので。いえ、別に大した事ではありません。僕自身は、なんにも危險なんか感じていないのです。ただ、周圍の人たちがそう言うのです。強いてそれを押し切つて外に出て行く用事も別に有りませんから、ボンヤリして此處に坐つているのです。しめ切つた窓の外をハシケの汽笛の音が、時々通り過ぎて行きます。ネバネバしたような匂いが板壁のすき間から這い込んで來ます。これはアヘンの燒ける匂いです。しばらく前まで、この匂いがして來ると僕は頭がクラクラしましたが、今は、好きになりました。これを嗅いでいると今までスッカリ忘れていた自分の小さい時分の事などを、ヒョイヒョイと思い出すことがあるのです。とにかく、ヒマでしようが無い位に時間があります。一つには、そのタイクツを埋めるために、こんなものを書くのです
前へ 次へ
全388ページ中129ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング