僕があの晩東京へ歸れなくなつたわけは、佐々からお聞きくださつたと思います。同じ理由がまだ續いているため、まだ、こちらにおります。當分東京には歸れないと思います。實はこれは、あの晩荻窪で、聞いていただくつもりでした。しかし、當分お目にかかれそうに無いので、その代りに、こうして書いてみようと思つたのです。あるいは、口でしやべるよりは、書いた方がよくわかつていただけるかも知れないと言う氣もするのです。僕はひどいどもりなんです。でも、人は僕がドモルのを知りません。普通のドモリとはすこし違つて、口を開いて何か言い出す前に、おなかの中でドモるのです。頭の中がワーンと鳴つてしまつて、最初言おうと思つたことが頭の中一杯に反射してしまつて、まるでアベコベな考えが出て來たり、又それを打ち消したり、等々、そしてついに何も言えなくなりだまつてしまう事が多いのです。事務的な事がらなら、割にスラスラ言えます。また、いつたん物を言いはじめてしまえば、その先きは表面の言葉の上ではドモりません。頭の中がドモるのです。これは小さい時からですが、戰爭中に一時それが完全に治つたのですが、戰爭後になつたら、前よりもひどくなりま
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