。それを現實に見たいのだ。責任とか何とか殊勝らしい事を自分自身に言い聞かせながら――いや、たしかに、それも多少あることも事實だが、ホントは自分も見たくて、どこかウズウズしている。たしかに、私も「動物のオスの一匹」だ。ニタニタと佐々兼武の笑う顏がのぞいた。
 そんな具合でなんとも決しかね、一方自身の仕事に追われているうちに數日が過ぎた。その間、この事件について何事も起きず、そのうち、貴島自身がでなければ又佐々でも現われれば、事はひとりでにハッキリしようと待つ氣持が有つた。そこへ、三四日して、人は來ずに、貴島から分厚な封書の速達が來た。急いで書いたものらしく字は亂暴だが、以前小説やシナリオを書いていたと言うだけに、書き方は相當馴れている。ペンで書いた部分や鉛筆で書いた部分が、入れまじつていた。
 次ぎに、それを寫してみよう。

        18[#「18」は縦中横]

「――」
 先日は失禮いたしました。
 あの晩、横濱の用事をすませて、すぐ荻窪へもどり、お目にかかれる豫定でいましたが、どうしても東京へ歸れなくなり、あなたをスッポカした結果になつてしまいました。申しわけありません。
 
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