のルリが、誰から何と言われようと、おとなしく家へ戻るとは、考えられない。この間會つた時の調子では、ヘタに引き戻そうとしたりすれば、更に遠い所へ逃げ走つてしまう可能性がある。すると、その事を充分に言い添えた上で、小松家の人に話して、ルリに對してすこしも手出しをしないで、ただ彼女が無事で東京に住んでいることを知るだけで滿足しているように言うべきであろうか。だが、小松敏喬はじめ、話を通して想像される小松家の人々が、それだけで滿足しておれる人たちでは無いように思われる。すると、事態をこれ以上惡化させないためには、小松家の人々には氣の毒だが、ルリの事を知らさずに、このままソッとして置くほかに無い。とにかく、ルリが今どんな事を考え、どんな事をやつていようと、すくなくとも、所在だけはハッキリしているのだ。
 だが、それで、よいだろうか?……いろいろに考えた。いずれにせよ、私自身、近いうちにそのNのスタジオを訪ねて、蔭ながらでもルリの所在をたしかめて來よう。と考えながら、佐々の話の中のルリが、その白い身體をひろげたり、伸ばしたり、くねらしたりして、ユックリと動いている姿が、私の眼の前に浮びあがつて來た
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