と思いこんでいるのだが、他にどんな事をしているか知れたものでは無い。佐々の話の中のNなどと言つた、永年そのような世界でそのような事をしている男は、別に差し當りの惡氣は無くても、世間を知らない若い女の一人や二人、どんな所までも追い込んで行ける。そういう消息は、佐々などより私の方がよく知つている。若い眼はどんなに鋭くても一面しか見ない。物事の裏の裏の、きたないドブドロまで見る事は無いのだ。
問題はルリの、あの氣性だ。それは強い。しかしあんなふうの強さほど、弱いものは無いとも言える。強さが一方の方へグッと傾いている時に、その傾きかたが激しければ激しいほど、後ろからヒョイと押されただけでも、ガラガラとすべり落ちて行く穴の深さだ。當人が自分の意志で前へ進んでいるのだと思つているだけに、轉落は加速度を増すのだ。
ハラハラして私は佐々の話を聞いた。にわかに自分の考えを述べたりすることが出來なかつたのも、そのためである。それから二三日の間、それが絶えず頭に來た。義兄の小松敏喬の方へ知らせてやつて、一應、家へ引戻すなり何なりさせ、自分の引受けている責任のようなものも、のがれようとも思つた。しかし、あ
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