きている。たとえば、黨の地域鬪爭の重大問題を論じ立てる時の熱心さと同じ熱心さで猥談をしている。そうしてニタニタ笑つているかと思うと、次ぎの瞬間には、税務署の役人の中にどんなにたくさんの汚職官吏がいるか、引揚者寮の住人たちが如何に窮迫した生活をしているか等について、現に自分が調べて來た實例を口からアワを飛ばしながら語つて、憤怒のために飛び出しそうになつた兩眼に涙を浮べる。どれがマジメで、どれが不マジメだなどと言う區別はない。戰爭のために全く空白になつていた生活――青年が自分の生活を充たし得る一切の事がらのピンからキリまでのことを、大急ぎで同時的に詰め込んでいると言つた調子である。現實に向つてただビンビンと身體をぶち當てて行くだけで、人の意見などを落着いて聞いている氣持の餘裕はない。第一、その暇が無いようだ。以前から共産主義に熱心な青年の中には、同じ陣營の先輩たちを除いて、人生や社會について自分たちとは別の考え方をする年長者を、何の理由も無いのに最初から全く信頼しない習慣を持つた者が多いが、そういう所が佐々にも有る。しかし、彼の場合は、それだけではない。共産主義者であるからと言うより、もつ
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