など、ルリはもちろん夢にも知りません。カメラが向けられている事は知つている筈ですけど、見たところ、それもほとんど意識していないような樣子でした。はじめ向うむきに椅子にかけていたのが、靜かな動作でカスリの上衣をパラリと脱ぎます。肩と背中がむき出しになりました。と思つたトタンに、スラリと立ちながら、こつちを向く。ハカマが自然に下に落ちて、例の肌をした胸、乳房、腹、腰――ユラリと股が動いて、それが殆んど鼻の先に有るような感じですからね。アッと僕は聲を立てそうになりました。……眼の正月と言うのは、あの事だなあ。それからルリは、いろんなポーズをして見せるんです。ユックリユックリと手足や胴をくねらして踊るシャムの踊りを僕は一度見たことがありますけど、あの踊りをもつとユックリとスローモーションにしたような動作です。その動作そのものが次ぎ次ぎと、まるで魔力を持つているように、こつちの身體をしびれさせて來るようです。ルリ自身もウットリとなつています。一人でいながら、まるで目の前に相手が居るように、そして、その想像上の相手にからみ付いたり、離れてじらしたり、近寄つて抱きついたりするんです。相手は男らしい…
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