無え。なんしろ世界は廣い。千人に一人、萬人に一人と言う肌だ、女になつても處女と同じだつていう事も、あるかも知れん。なんしろ、ルリ君がその男を憎んでいるのが一通りや二通りでは無いからね。よつぽどひどい目に逢わされたんだと思わなきやならない。やつぱし、ヘヘ、花は散つたですかね。しよう無え。ヘヘ、――
 ――と言うんです。どうです? それで僕が、ルリの寫眞を撮る所を見せてくれと言いますと、イヤだと言います。それで僕はちよつとシブイ事を並べました。馴れているからワケありません。スッパ拔くとか何とか言つておどかしたんだろう、ですつて? なに、おどかすつて程のことはしません。アッサリしたもんです。そいで、奴さんシブシブ承知して、今日は駄目だから明日來いと言うんです。そいで、その次ぎの日に行つて、その覗き穴から見せてもらつたわけです。
「スタジオの中は天井一杯のガラス板からの光線で明るくなつています。こちらの室は暗い。ルリとNの間には、大體時間の打合せがしてあるらしく、Nがカメラの準備をして、こつちの穴からファインダアを睨んでいるんです。僕は、そのカメラ穴の僅かな隙間から覗くんだ。僕が覗いていること
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