しく今度は落着いて歩き出しました。案の條、Kの一劃で燒け殘つた小住宅街に入つて行き、一軒の家に消えました。間を置いて、その家の前に行つて見て、ビックリしました。前に社の仕事で二三度來た事のあるNのスタジオなんです。スタジオと言つてもケチなもので、外部からはわからず、見たところ、こわれかかつたような唯の西洋館です。勝手を知つていますから横露路から裏へまわつてノックすると、直ぐにその當のNが人の善いツラをニュッと出して、ヤアヤアと言います。社の用事で訪ねたと思つたらしいんです。それで僕は、極く簡單に、これこれの女の人が君んとこに居るねと訊ねると、「ああ、R劇團のルリ子つて子だろ? 居ますよ」とアッサリしたものなんです。一週間ばかり前から來ていると言うのです。「そう言つて來ましよう」と直ぐにも取次ぎそうなので「いや、いや、會わない方がいいんだ。チョッとした事件で調べてみたいだけだから、僕が來たことも默つていてほしい」「へえ、そうかね」と言つて、Nはかえつて變な顏をしているんです。「とても良い子ですよ。氣性はチョット變つているけど」……それで僕はルリについていろいろ聞きました。R劇團の事も聞い
前へ 次へ
全388ページ中113ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング