たいな所に居ましてね、その壁に覗き穴みたいな小窓が切つてある、そこにカメラのレンズを突つ込んで寫すんです。寫場に男が入つて來るのはイヤだつてルリが言うそうでね。その覗き穴のわきの隙間から僕あ見たんですよ。
「そうですよ、僕は共産主義者です。しかし人間だもんなあ。男ですからね。オスです。女を好くなあ、別に惡かあ無いじやありませんか。僕にとつちや、むしろ、それを否定しながら、一方でこの男女間のことを夢みたいに理想化して戀愛なんて言うものをむやみにありがたがつている連中こそヘンだと思いますよ。もちろん戀愛もけつこうです。そんな事もあるね。しかし世の中には戀愛以上のものが、いくらでも有るんだ。たかだか性慾の昇華した心理をそれほど貴重なものだと思う必要は無いですよ。ハハ、いいじやないですか、それで。……見たのは、あの次ぎの日です。
「あの日は、カフエであなたが電話をかけに出て行つた後、あの女は、しきりと貴島の所に連れて行つてくれと言つて聞かないのです。貴島の居る所を自分も知らないと、いくら言つても聞かない。第一、黒田の藥の一件や、それから、もう一つ、僕もよくは知りませんが東京の何とか言うギャング
前へ 次へ
全388ページ中110ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング