こへ出てみると、驅け出して女の方が出て行く姿がガラス越しに見えましてね、それから、男の方が急いで私にそう言つてから、後を追つかけて飛び出して、見えなくなつたんです」
「そうか……」私は窓ガラス越しに、その方を見た。盛り場のマーケット裏の晝さがりの露路のゴタゴタした風景に、事も無く薄日がさしているだけだつた。
「……どうなすつたんですの?」
「いや」
「でも」と女給はなんと思つたか眼だけで笑つて「綺麗な人ですわねえ。どういう方?」
 受け答えをする氣も起きなかつた。思うにルリは、私が小松敏喬の方へ電話をかけに行つたのをそれと察して、逃げ出したのらしい。さしあたり、どうしようもありはしなかつた。わたしはスゴスゴと飮物の金を拂つて、家へ歸つた。

        16[#「16」は縦中横]

「實にすばらしい肉體をしているんですよ。僕あ、たまげたなあ! タフでねえ、どんな恰好でも出來るんだ。アクロバット同然です。股の間から顏を出せと言えば、なんの苦も無く、スラリと出す。それでいてグニャグニャはしてません。ピシッとして、恐ろしくねばりのある筋肉を持つています。身體中の軟骨部が恐ろしく軟かで強い
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