な目から、ダラダラと、いくらでも落ちて來た。………二人とも時間というものを忘れてしまつて、シビレたようになつていた。そこに、玄關先きから綿貫ルリの聲が響いてこなかつたら、二人はいつまでそうしていたかわからない。
「コンチワァ。ごめんください! あがつてよろしうございます、センセ? 綿貫ルリ」
 ルリという語尾を投げつけるように響かせて、明るい聲だつた。それを聞いて、私はホッとした。この場のやりきれなさから助け出されたような氣がした。同時に、しかし、後になつて氣が附いたことだが、それで、この男と二人だけの空氣が打ち切られることが、なにか惜しいような氣もしたのだから、人間の心というものはヘンなものである。

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「今日はね、先生、どうしたらいいか相談に乘つていただきたいと思つてあがつたんですの。いいえ、最初先生から、あんだけとめられたのに、自分でだまつて入つてしまつといて、今ごろになつてこんな事を言つて來るなんて、自分かつてだと思うんですけど――いえ、後悔しているんじやありませんの。あれだつて私、いろいろ勉強になるから、自分では、これでよいと思つているんです。どうせいつま
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