た女の人たちの事を語ると言つても、チャンとツジツマの合つた、自信のある語り方は出來ない。だけど、僕はあなたに語らないではいられない。したがつて、あなたは僕の書くことをあまり信用なさつてはいけません。つまり、僕があの女の人は良い人で立派なことをしていますと言つても、あの女の人は惡くつてパンパンみたいな事をしていると書いても、どちらも、直ぐに信用なさらないように。僕ごとき「幽靈」――フラフラ、グラグラの人間に、パンパンが惡いのか、良妻賢母が善いのか、又はそのアベコベなのか、わかるもんですか。そして、こんな事を言う理由の一つは、リストの中の女の人たちは、かつてのMさんとあなたの共通の知人の人だろうと思うので、そんな人たちをいくぶんでも、僕の見方でケガすことは、その人たちに對してもあなたに對してもすまないと思うからです。
 もう直ぐ夏です。
 僕は今、山梨縣の田舍の貧しい農家に泊つていて、その家の農事の手傳いをしています。ここに來てから、すでに一カ月ぐらいになります。今、麥の取り入れを手傳つています。取り入れはほとんどすんで、一兩日後から、「コナ」しに――調製のことらしいです――かかるそうです。そんなわけで今日はすこし暇です。
 この家は僕は二度目です。前に一度たずねて來て、それから東京へ歸り、あちこちと東京近くで三四人の女の人と會つて、それから又、一月前に此處へ來ました。百姓青年のカッコウをして、畑や麥などの世話――と言つても、僕は百姓の事はなんにも知らないので、久子さんから命令されるままに手傳つて働らくのです。ビックリなさつたですか? あのゴロツキの、フラフラ男が、默つて百姓仕事をしているんですよ。自分でもビックリします。そしてコッケイになります。現に、これを書きながら僕はさつきから笑つているんです。
「貴島さんのオッさんは、なにを、さつきからゲタゲタ笑つているずらなあ、坊や?」
 向うの土間で坊やを相手に豆をむいている久子さんが、さつき、言いました。

 話は、二三カ月前にさかのぼるわけです。

 僕は徳富稻子に會つて、彼女と夫との關係や、彼等の進歩的思想の内容を覗くと、そのあと實に變な氣持になつてしまつて、いろいろ考えました。しかし、僕などには、それをどう思つてよいか、わからない。あの人たちの生活も戀愛も思想も、一切合切實に愚劣だ。踏みつぶしてしまえと思う。しかし、そう感ずるだけで、なぜに愚劣なのか、なぜに踏みつぶしたくなるのか、そのへんの解釋は僕の力では出來ない。――それで、僕は自分でもイヤになつた。そんな連中に會つて歩くことが、すつかりイヤになつた。第一、東京という所がイヤになつてしまつた。
 それで田舍に行つて見ようと言う氣になつたのです。幸い、リストの中に、地方に住んでいる人が二三人おります。その中に、山梨縣にいる久子と言う人があり、その住所書きは、あなたから作つていただいたリストには書いてありませんけど、立川景子さんから聞いて書きとめてあります。地圖でしらべて見ると、Nという驛から大して遠くも無さそうです。それで、すぐに、そこへ行つて見ました。これが先ず輕率だつたのです。
 行く前に、もう一度景子さんに會つて、もうすこし詳しい事を聞けばよかつたのでした。そうすれば、その山内久子が、もう既に結婚している人で、しかも戰爭中に夫と共に滿洲にわたつていて、したがつて、僕が出征した時分は、彼女は滿洲に居た。だから、僕の搜している女などではあり得ないと言うことが、わかつたわけです。もつとも、そんな事情は立川景子は知らないのかもわかりません。「山梨縣で百姓をしている久ちやん」などと言つていましたが、それがいつ頃の知識なのか、――或いは終戰後の現在のことかも知れないが、――ただ人づてに聞いた噂話だつたのか。いずれにしても、多少は何か聞けた筈なのに、景子に會わずに僕は出かけてしまつたのです。しかし、僕はこの自分の輕率さを今となつては、後悔していません。なぜと言うと、あの女で無いと言うことは、久子という人に會つて二つ三つ話をしたら直ぐにわかつた位で……つまり、あの女を搜すという目的から言えば全くムダな失敗を演じたわけなんですが、そんな事よりも、もつと大きな――どう言えばよいか、得るところが有つた……いや、こんな言い方では、うまく僕の氣持は言い現わせません。何か、とにかく、何かを見た。そうです、何かとしか言えない。なぜなら、それが何であるか、その中にどんな意味があるのか、僕にもまだわからないからです。とにかく、その結果――いや、結果と言うと變ですけれど、そういう事のために、僕は又現在こうして久子さんの家に居るわけなんです。
 それを、カンタンに書いて見ます。

        37[#「37」は縦中横]

 中央線のN驛で汽車を降りて、そ
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