うわけでしよう? 動物本能と言つたようなものでしようか? しかも、肩と胸の、フックリと盛りあがつた白さまでも、たしかに見たような氣がするのですから變です。……女は裸でした。そしてヒョイと氣が附くと僕自身も、いつの間に脱がされたのか脱いだのか、着ているものを全部捨てて寢ていたのです。不意に僕はドキドキして、どうしてよいかわからなくなりました。無意識に起きあがろうとしました。すると女が默つたまま、ツと寄つてのしかかるような加減に、冷たい、そのくせシットリと汗ばんだような腕を僕のワキの下から背中へ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して、乳房を僕の胸にピタリと附けて來ました。僕は息がつまつたようになり、急に身體がふるえ出したようです。泣きたいような死んでしまいたいような、ミジメな氣持がしました。すると女が、身體を弓なりに反らすようにしながら、僕の背中にまわした腕を下の方へだんだんさげて行きます。何か強い匂いがしました。ベトリとしめり氣のある肌でした。氣が附くと女もブルブルと全身ふるえています。あるいは僕自身のふるえを、相手までふるえているように感じたのかも知れませんが、でも、たしかに女もいくらかふるえているようで、それをこらえるためでもあるかのように、兩脚にグッと力を加えて來ました。僕の身體が、どこだか知らないがギリッと痛みました。次に頭がボーッとなつて來たことを憶えています。
…………………
それから、どんな事が起きたのか、おぼえていません。
いえ、ここまで洗いざらい自分の恥を言つているんですから、そこの處を書くのを避けようとしているのではありません。絶對にそんな事はありません。ホントにおぼえが無い――と言うよりも語りようも書きようも無いのです。おぼえが無いと言うのはウソです。しかし、そこには、語るべき事はなんにも有りません。アッケないと言つても、どう言えばよいのか、ほかの人も最初はみんなこんなもんなんでしようか? そこには全部があるようでいて、しかも、なんにも無いようなんです。なんという馬鹿な事を人間はするものだろうと言う感じもしましたし、同時に、なにかもう、人間に出來る事はこれで全部しつくしてしまつたような感じもしました。
正直に言います。完全な射精がありました。一瞬間の恍惚がありました。しかし、快感らしい快感は、ほとんどありませんでした。
女は僕の身體の下に死んだようにジッとしていました。その顏が僕の鼻の先きに、ホンノリと浮んでいました。線の細い、やせがたの面長の、美しい顏を見たような氣が僕はしたのです。間も無く默つて起きて、どこかへ行きました。考えてみると最初から、女はズッと默つたきりで、一言も口をきいていません。どこの何と言う、そしてどんな女だろう?……僕は、なにか虚脱したような無感覺な氣持であおむけに寢ながら、無意識のうちに女が戻つて來るのを待つていたようで、そうなれば女の正體もひとりでにわかるだろう事を豫期したやうです。しかし女は、いつまで經つても戻つて來ませんでした。そのうちに、とつぜん僕は耻かしくてたまらなくなりました。こんな所で見も知らない女とこんな事になつたことも、その相手を又待つているという事もです。カーッと全身がほてつて、とてもガマンが出來なくなつて來たのです。このまま歸つてしまつては、いけないような氣もしたのですが、とても一刻もジッとしてはおれなくなつた。
それで逃げ出したのです。枕もとを手さぐりすると僕の洋服がそろつていたので、それを順序もなにもメチャメチャに着けてから、暗い中を四五歩行くと壁に突き當つたので、壁に添つて手さぐりで横に歩くと、出入口のフスマらしい箇所が有るので、そこを開け、廊下に出て、壁を傳つて三つばかり曲つて行くと低くなつているので降りるとタタキ。入つて來た時の心おぼえがいくらか殘つていたのか、タタキを左手へ四五歩行くとドアが有つて、引くと直ぐ開きました。僕がタタキに降りた時に、すぐわきの部屋で人の氣配がして、女の聲が何か呼びかけました。最初の中年の女のようです。しかし僕は答えませんでした。女にも僕を引きとめる氣は無いようです。その氣があれば、勝手を知らない僕がマゴマゴしている間に、それが出來た筈です。後で考えると、どうも、最初から先方では僕が歸りたくなつた時に勝手に歸られるように、はかつてあつたらしい。
僕があの時もうすこし落ち着いていれば、あの家がどんな家で、どこに在つて、そして僕の相手になつた若い女が何と言う女か――どうせハッキリした事はわからないにしろ、或る程度の手がかりになる位のことは掴んで歸られた筈です。しかしあの時はただもう人から顏を見られたり言葉をかけられたりするのが耻かしくて、ただもう一刻も早くその場から逃げたい一心で、そんな事を考える餘裕は
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