は横顏を見せているが、綿貫ルリとは似もつかない、知らない顏である。佐々は、それをルリの寫眞だと言うのだ。――
「顏だけは、ほかの女をモンタージュするんですよ。どう見てもそんな細工がしてあるようには見えないでしよう? そうなんですよ。うまいんだ。Nと言う野郎はインチキ野郎だけど、そういう技術だけは、東京で一二かも知れません。以前に僕の方の雜誌の寫眞部で三四囘この男を使つたことがあるんでね、知つてるんです。頭の禿げた四十過ぎの獨身の男です。氣は良いんです。氣の弱い、善人だな。この男は、このような寫眞を自分の道樂と金もうけの二道かけて作つては賣つているんですが、一方で――いや、裸體寫眞を寫すには身體の良いモデルが必要なので、そのモデル搜しのためもあつて、方々のレヴュ團やアチャラカ劇團なんかに出入りして、舞臺寫眞や女優の寫眞などを非常に安く、場合によつてタダで撮つてやつたりしていましてね、そんな事で、R劇團にも出入りしていてかなり前からルリには目を附けていたらしいんです。モデルになつてくれるように一二度頼んだような事も言つていました。物やさしいし、それにネバリ強いんですよ、女の子には工合が良いんだね。そこへちようどルリがR劇團を出たいという事をチョットしやべつたらしい。
「行く所が無ければ、いつでもいいから自分の所においでなさいと言われて、ツイ行つたんですね。下にも置かないように、もてなしたらしい。トタンに、どう説きつけたか、――Nに言わせると、自分は決して無理に頼んだわけじや無い、ルリさんはほとんど自分から望むようにしてモデルになつたんだと言いますがね、もつとも顏だけは自分であることがわからないようにしてくれなければイヤだという約束なんだそうです。――とにかく、原版一枚あたり百圓拂つていると言うんです。燒増しをするたんびに一枚あたり三十圓、これはルリが要求するそうです。「さすがにアプレゲールじやね。舊華族のお孃さんだと言つたつて、金の事となると、おれたちよりやチャッカリしとるんだぜと言つていました。それでも、良い身體だし、それに、注文通り、どんな恰好でもしてくれる、場合によつてはこちらで思いもかけないようなポーズを自分からしてくれると言うんで、これ以上のモデルは他に居ないんだそうです。どうも樣子が、こんなような、僕に見せてくれたような一人だけの裸體寫眞だけで無く、男と二人の本式の「人間寫眞」――Nはその手の寫眞のことを「人間寫眞」と言つているんですよ――も撮つているんじやないかと思います。もちろん、二人を組ませて寫すんではなく、男と女をそれぞれ別々にいろんなポーズをさせて寫しといてモンタージュするらしいんです。この方はルリには秘密らしいですがね。或いはこの方が本職じやないかなと思われるフシがあります。なにしろ非常に賣れるらしいんですよ。當分良い物が撮れると言うので、奴さんホクホクしていました。それに、自分が寫すだけで無く、終戰後ひどくふえたと言うシロウト寫眞家の「藝術寫眞」ですね、あれのモデルとして盜み寫しをさせて高い料金を取ることもしているらしい。結局はテイの良い「覗き」です。
「ルリの身體のすばらしさは、この寫眞だけでは、わかりません。そりや形の良さはこれでもわかるし、これだけでも大したものでしよう? そうでしよう? ヘヘそうなんですよ。先生だつて人間でしよう? 男でしよう? そんなら正直に感心して下さつてもいいじやありませんか。氣取つたつてはじまらんですよ。ね! 形だけでも、こんだけの物です。ところがホントの良さは、肌を見ないじや、わかりません。皮膚ですよ。色とキメとツヤと、それから何と言つたらいいかなあ、ネットリしたようなサラリとしたような、全體がツヤ消しになつているようでいて、薄く光つているんです。色は案外に眞白ではありません。小麥色――いや、小麥色ほど濃くは無い、つまりクリーム色に非常に薄くしたオークルを混ぜた、Nは「こんな色は上等のパステル繪具で出せるだけだ」と言つていました。ただし、パステルだと、粉つぽくなつてしまつて、あのシットリとして、光という光をすべて吸收して底の方に沈ましたようなツヤは出ないと言うのです。チエッ、どうも、うまく言えない。どだい、こいつを口の先で言おうとするのが、まちがつているんですよ。自分の目で見る以外にありません。Nの奴は、「まだ男を知らない肌だ」と言うんです。「バカ言うなよ」つて私が笑うと、「いや、まちがい無い。今迄こんだけこの道で苦勞して來た俺の眼に狂いは無い。いや、眼は或いは狂うことがあるかも知れんが、俺がカメラのファインダアから覗いた眼に絶對に狂いは無いよ」と言うんです。奴に言わせると、男でも女でも、たとえば昨夜セキジュアルな營みが有つたか無かつたかと言う所まで、ピタリとわかると言
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