私のような作家の惡習慣のようなものかもわからないのだ。――そんな氣がしながら佐々のおしやべりを聞いていたが、一方でこの三人の青年が互いに「偶然に吹き寄せられたから當分いつしよに居るだけだ」と言つたふうに、こうしてサバサバといつしよに暮していながら、自分たちでも氣が附かない所でむすばれている姿が、なにか私にうらやましいような氣がした。私にも私の周圍にも、青春のそのような空氣が、かつて有つた。今はもう無い。あれは一體、いつ頃、どこへ行つてしまつたろう?……
飯がたけ、久保が歸つて來て、かんたんな食事がはじまつた。久保は、ほとんど口をきかないで食う。佐々と私の二人分よりもよけいに食つたろう。私は二人に向つて、貴島に會つたら、とにかく一度私の所に來るように言つてくれるように頼んだ。「ええ。一兩日中に僕が會いますから、そう言つときます。でも、ここ四五日は奴さん、出歩けないかもしれませんよ」と佐々が言つた。「どうして? その藥の件で?」「それもあるでしようが、ほかにも何かあるようでしたね」
食事がすみ、私が辭し去ろうとすると、佐々も出かけるので途中までいつしよに行くと言う。久保は今日一日寢るらしく、すぐにもう横になつていて、佐々が身仕度しながら、工場のことや爭議のことを言つて、「ひと寢入りしたら、直ぐに行かなきやダメだよ!」とブツクサ言つても、「うん、うん」と答えるだけで、もう半分眠りかけて、くつつきそうなマブタをしていた。
私と佐々は驛まで歩き、電車に乘つた。
その電車が發車して間も無く、うしろから私の背をこずく者があるので、なんの氣も無しにその方を見て、おおと言つてしまつた。綿貫ルリだつた。紺ガスリの筒袖にモンペを着て、ニコニコして立つている。まるで何のことも無かつたような顏色だつた。
「どちらへ、先生?」
「どちらへつて、君……君は、どうしたの?」
「まるきり、氣がつかないのね。ズーッと私、うしろから附けて來たのに、フフ!」
「つけて來た? 僕をかね?」
「うん。驛の前から」
「……そいで、君は、ズッと、どこに居たんだ?」
「驛の前よ、だから」
「そうじや無いんだ。全體こないだから――」
「驛のすぐ前に小さい喫茶店があるでしよ。あすこで見ていたのよ。そしたら先生いらしたから、追いかけて來たんだわ」
「すると、なにかね、君あ喫茶店に勤めるようになつたのか?」
「うう
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