なの? いや聞き方が變だけど、いつ頃から――?」
「戰友ですよ。戰爭中、いつしよだつたんです」
「へえ、三人とも?」
「ええ。僕と貴島はクェゼリン以來ズーッといつしよで、佐々はすこし後で、僕と貴島がオキナワにまわつてから、内地から補充でやつて來て、いつしよになつたんです」
「君は、そいで、今どつかで働いてるの?」
「職工ですよ」
「どんな仕事?」
「イモノ。流しこみをやるんです」
そう言つて彼は、驛のプラットフォームの電燈の光に兩手のひらをかざすようにして見せた。ちようど野球のグラブのように肉が厚い。その甲や指のあちこちに、ボツボツと黒い大小の斑點があつて、よく見るとその一つ一つが二分三分ぐらいの深さの穴になつている。既に完全に治つているキズあとだが、その鉛色になつた肉のえぐれ方が、生まキズよりも酷薄な影を持つていた。
「湯のとばつちりが飛びつくんだ。顏はメンをかぶつているから、いいけど、そうでなきやイボガエルみたいになつちまうね」言いながら、自分の言葉でおかしくなつたと見えてニコッとした。
「湯と言うと?」
「金屬の熔けたやつ――」
「ふむ」
「でも、もうダメですね。以前は大きな熔鑛爐でガンガンやつてたけど、ちかごろじや、たまに鐡だと思やあ、火に燒けたボロボロの屑だもん。たいがいアルミかなんか煮て、釜やなんぞ作るんだ。まるで、ママゴトでさあ」
「どこ、工場は?」
「十條です。もとは職工が三百人から居た所だけど、今じや五十人とチョット。ここんとこ、そのママゴト仕事もすくなくなつて來てね、カマは火を引くし、給料は拂わんし、心あたりの有る者は、ほかへ行つてくれと言つてるんですよ」
「爭議になつているんだね、そいで?」
「ええ。……だけど、景氣の良い時のナニとは違うんでねえ。會社もホントにやつて行けないらしいや」
「そいで、どんな工合なの?」
「ダメだなあ。どつちにも、なんにも無いのに、ムシリ合いをしてんだもの。乞食の喧嘩みたいなもんですね。左翼の連中がやつて來ちや經營管理をやれなんてアジつてるけど」
「佐々君と言うのは、そいで行つてるんだね?」
「まあそうでしようねえ。本部との連絡係みたいな事をしてるようです」
「君も共産主義?」
「いいえ」
「すると共産主義に反對?」
「いやあ。僕あまだ、そういつた事はわからんです」
「……貴島君は今夜、もどつて來るだろうか?」
「
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