ですが――に追いまわされるようになつてから、再びそんな事は胴忘れしたように消えてしまい、やがて今度は戰鬪が始まる。――これも書けば戰鬪ですけれど、鬪つたのは相手方ばかりのようなもので、僕らはただ叩かれただけと言うのが實状です。飛行機や艦砲でビシビシ來られるのに、こちらでは大事な武器はとつくの昔にこわれてしまつていて、しかた無く、手りう彈とシャベルを抱えて、タコ穴の中に逃げかくれてばかり居ました。その頃です。隊内で變な事件が起きて、久保正三がもうすこしで殺される所を僕が助けてやつたのは。しかし、その事は今書きません。いや、その事だけで無く、その三カ月ばかりの戰鬪のことは、僕は書きたく無いのです。不愉快で。そうです、ただ不愉快なだけなんです。日本人を僕が最初に、そして、もうどうしようも無い位にひどく――そして今でもそれは續いているんですが――憎んだのは、その頃なんです。不愉快で、思い出すのもムカムカします。それに事實、書くことも、ほとんど有りません。僕らは、毎日々々、ガキのように食い物を搜してウロツキ歩き、あとは、ハジからバタバタと殺されて行く戰友を眺め、それが間も無く自分の番になるのを待つていただけです。
 ところが、その頃、又、あの女の事を思い出しはじめました。そして今度は、なにか、なつかしいような氣持がしました。その女がなつかしいのか、あんな事で男としての最初の事を知つた自分の幼い姿がなつかしいのか、又は、そんな事を自分にさせてくれたMさんがなつかしいのか、ハッキリしませんでした。そのみんなが入れまじつた氣持だつたのかも知れません。とにかく、次ぎの瞬間には死ぬだろうと思いながら、その時のことを思い出しているのです。そのくせ、女の顏はサッパリ浮んで來ないから妙です。

 それから終戰になり、やがて僕は歸つて來ました。
 そのへんの事、くわしく書くのは、ハブキます。
 世の中の調子はまるでメチャメチャになつており、そして僕はウロウロしたあげく、黒田策太郎の厄介になつてゴロツキの生活に入りました。僕があんな生活に入つたのは、入りたいと思つて入つたのでは無く、はじめ金が無くて生活が出來ないで困つていたら、それなら一時の腰かけにでも内の會社に來て見ないかと黒田に言われて、ズルズルにあんなことになつたのです。あんな世界を好いているからではありません。しかし、あんな生活をしてみ
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