も、出征するということは、死にに行くと言うことだつた。父からの教育や訓戒だけでなく、あの頃では一般にそうとしか考えられなかつた。僕は文字通り、今思い出しても不思議に思われる位にアッサリと、まるで冷靜に、間も無く自分は戰死すると思つていた。入隊して、生活もいつぺんに變り、荒い兵舍の殺氣立つた日々に追われるようになつていた。自分一身の童貞とか、その時の相手の女とかいう事は、まるで瞬間にけし飛んでしまつた。
 ホントに、その當座三四カ月は、その事を思い出しもしなかつた。
 それが、不意に、ヒョイと思い出したのは、僕が宮崎縣の基地で待機している時でした。どんなキッカケからだつたか忘れました。
 もう間も無く前線に出ると言うことで、召集された者はみんな不安なようなそれでいて變にクソ度胸をすえてしまつたと言いますか、ドロンとした氣持でいました。果していつ出發するのやら、又、どの方面に行かされるのやら、いろんな人がいろんな事を言つてもハッキリした事はまるでわからず、しまいに、どうでもいいや、どうせどうなつても同じだ、死にやいいんだろう、と言つたような調子なんです。毎日なんにもする事が無く、暇が有すぎる。タイ風の中心に近づくにつれてまるで無風のポカーンとした所が有るそうですが、それに似たようなものかも知れない。まるで虚無的な時間でした。その中でヒョイと思い出しました。
 思い出すと言つても、とりとめた事ではありません。第一、ハッキリした事は憶えていないんですから、童貞を捨てたというような感傷みたいなものも、すこしも感じません。感覺の上でも、その時の快感の後味みたいなものが微かに有るきりで、思い返してゾクゾクすると言つたような事は、まるでありません。すべてがアッけない夢を思い返しているようなものでした。第一、その時はオボロゲながら見たと思つた女の顏のリンカクなども、完全に忘れてしまつているのです。しかも、われながら味氣なく思つたのは、その女の事をハッキリ思い出せないために自分がすこしもイライラしたりしない事です。むしろ、そんな事よりもシミジミとなつかしく、逢いたいなあと思つたのはMさんのことでした。
 しかし一度そうして思い出すと、その後は、時々思い出すようになりました。
 だが間も無くオキナワに行き、陣地の構築やその他、完全な戰陣の生活――と言つても、ほとんど土方の生活と同じだつた
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