壕の天井を睨むようにして地上の氣配に耳をすましている。貴島だけが、ほかの事でも考えているのか、壁に倚りかかつてボンヤリとロウソクの灯を見守つていた。
「ウソだな。足音もしないじやないかね?」しばらくしてから杉田が低い聲で言つた。
「う、うん……五、六人だよ」久保が言つた。そのままシーンと靜まり返つて數秒が過ぎた。足音など私には聞えなかつた。
そのうちに、壕からかなり離れた邊でピシリと枯枝でも踏みつけたような音が微かにした。それとほとんど同時に、杉田がスッと立つや、恐ろしい敏捷さで壕の入口の階段をパッと外に飛び出して行つた。あと又、ヒッソリとしてしまい、なんの物音もせず。しばらくして、杉田の聲で
「おいおい、何だか知らないが、まちがえてもらつちや困るよ。……誰だね、お前さんがたあ?」
すこし離れた闇の中へ向つて言つているようだ。しかしその方からは何の答えもない。
「え? 誰だね? 何か言つたらいいじやないか」
しばらく沈默がつづき、今度は全然聞いたことの無い男の聲が、離れた所から
「ちよつと伺いますが……貴島さん、居ますね?」
「キジマ? ……さあ、そんな人は知らんなあ」杉田が言つている。「なんか、まちがいじや、ありませんかねえ」
「おい杉田!……お前、黒田んところの一本杉だろう?」いきなりドス聲で杉田の名を言い、同時にドタドタと六七人の足音が入り亂れて近づいて來た。次の瞬間に、パッと壕の入口に飛びこんで來た杉田の顏の血相が變つている。貴島に向つて早口で一息に押し殺した聲で
「國友の奴等だ、六人ばかり居る。ここは俺が引き受けたから、兄きあ、すぐにズラかつてくれ!」と言うなり、ポケットの中からギラリと光るものを掴み出して、スッと外へ消えた。
ギャァと、すぐに、男の叫び聲がして、あとは、ドタドタドシンと――壕の中にいると、まるで頭の上に、入り亂れる足音が、地響きを打つて聞える。
貴島がスッと立ちあがつた。
「駄目だよ貴島、あがつて行つちや!」久保が言つた。それを見おろしてニヤリとして
「うん……」
「行くなよ、つまらん!」
久保の聲を背に、ユックリと普通の歩度で貴島は階段をあがつて行つた。
ドシンドシシと格鬪している音が續く。聲を立てる者は一人もいないのである。防空壕の天井の隅から、パラパラと砂が落ちて來る。……久保と私は互いに顏を見合せたまま坐つていた。久
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