? ウチじや、あのありさまで、私を食べさせて勉強させてくれるような力は無いの。だから私が芝居の勉強をつづけて行くためには、今の劇團に居るよりほかに、方法は無いんです」
「……困つたねえ。……まあ、なんとか、そこで、つまり要領よく、つまりガマンしてやつて行くんだなあ」
「どうガマンのしようが有るんですの?」
「どうつて、具體的には言えんが……だから、君が最初映畫か芝居の方へ入りたいと言つて來た時、僕は口をすつぱくして、とめたね? いや、今の世の中が、大體において、どこもかしこも似たようなものだ。ガマンする以外に無い。ハッキリしようとすると、全部を肯定するか全部を否定する以外にないもの。全部を否定すると言うのは、自分の良心みたいなものを押し立て、それ以外のものに反抗することだ。誰にしたつて、これを一番やりたい。だけどこれはよつぽど強い人でなければ出來ない。なまじつか、中途半端に良心的になつたりすると、踏んだり蹴つたりされた上に、落伍してしまう。それ位なら、全部をあるがままに肯定して、つまり、言つて見れば闇屋かパンパン――まあ、そう言つたふうになつてもしかたが無いから、とにかく生き拔いて行つてみる事じやないかな。そういう考え方も在ると思うんだ。いやいや、そうしろと言つているんじや無い。二つのうち、どつちか一つしか無いことを言つているんだ。その中途であれやこれやと、マゴマゴしていると、かえつて自分というものがメチャメチャになる――」
「すると先生は、私に、つまりパンパンになれとおつしやるんですの?」
「いや、そんな――」
「そうなんです! だつて、私にどうしようが有るんです? 今夜、たつた今、これから小屋にもどれば、もしかすると、……いえ、そういう事になつてきていることが有るの。Kという人がとてもシツコく、あたしになにするの。イヤ! あたしはそんなの! だけど――だけど、だからさ、どうすればいいんですの私? 先生みたいなそんな話は、机の上だけの話だわ! 私たちは、今すぐジカに、私たちのカラダをどうするか、どう處置するか、鼻の先に突きつけられているんです。それが、私たちなのよ。明日の日は待てないのよ!」
顏をクシャクシャとさせたかと思うと、それがベソになつて、ヒーと泣き出していた。
私は、默つてしまつた。ルリは二聲ばかりで直ぐに泣きやんだ。その沈默の中で、貴島がボサッとし
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