にされてしまうのね。それが段々つもりつもつて來て、お兄さんたちに憎まれてしまつてごらんなさい。かんじんのシバイの方で役がもらえなくなるの。するとお給金もさがるし、肩身がせまくなるし、居づらくなつてしまうんです。そんなふうにして、劇團をやめてしまつた人が二人ばかり有つたわ。ねえ先生、私どうしたらいいかしら?……いえ、それ位のこと、どうせ覺悟して入つたんだから、なんだかだと言われるのは、なんでもないんです。お給金がさがつてしまうのも、がまんする。しかし、それがコジれてしまつて役ももらえなくなれば、せつかく私、芝居の勉強しようと思つてあんな所に入つた意味が無くなるんですもの。つらいわ。ホントに、ホントに私、こうしてしんけんに芝居の勉強しようと思つているのに……私、一人前の女優になるためになら、ホントにどんな目に會つてもいいと思つているんです。だのに、そんな事から勉強ができなくなつたら、死ぬよりつらいんですの。……實は昨日から又、次ぎの、二の替りの出し物のお稽古がはじまつていて、ゆんべも小屋で泊つたんですの。今夜も泊らなきやなりませんの。イヤでイヤで、しようが無いもんですから、私の役を、ほかの子に代つてもらつて、拔け出して來たんです。どうすればいいんでしよう、先生?……」
 話の内容が、キワドイ感じを與えていることなどに全く氣が附いていない。涙ぐまんばかりに眞劍なのだ。眼のふちが紅潮し、コメカミの邊は、青白く、ふくれた靜脈がすけて見える。……私は劇作家としての職業上、そんなふうな劇團にも出入りしたことがあり、内部のありさまも以前は知つていた。それは普通世間で思つているほどビンランしたものでは無いのだが、終戰後、そういう事になつた所もあるのか? チョット信じられないけれど、しかし、戰後の一般の世相から推して考えると、所によつてそんなこともあるのかも知れない。……とにかく、それまでヤンチャな子供の話を聞いているように輕い氣持で微笑して居れたのだが、だんだん、いいかげんな事は言えなくなつた。貴島も默々として、ルリの横顏を見ている。ルリは、しかし、子供らしく熱して、詰め寄らんばかりになつて來た。
「……そんなにそれがイヤなら、しかたが無いから、劇團をやめるわけに行かないの?」
「行かないのよ、それが。やめてしまえれば、こんな苦しんだりしません。新劇などに行けば生活費は出ないでしよう
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