した。同時に一方で、こいつは困つたと思いました。一度に兩方の氣持がしました。そしてドキドキしました。それはルリさんをホントに好きになつてしまいそうだと思つたためです。それは僕には困るのです。いや、そうではありません、僕は女の人をホントに好きになる事の出來ない男なんです。好きになつてはいけない人間なんです。いや、ですから、ルリさんを好きになる筈は無いのだ。だから――僕は何を書いているのか、自分でもわかりません。その時も自分で自分の氣持がわかりませんでした。わからないままで、うれしい氣がして、そして、困つたなと感じたのが事實です。
 でも、しかたが無いので――いや、しかたが無いなどと言うのは嘘で、心の中では浮き浮きしながら、僕はあの人を送つて行きました。途中、かくべつ、まとまつた話はしません。ルリさんの方は、いろんな罪の無い事を次ぎ次ぎと話しかけますが、僕はあまり口はききませんでした。
 高圓寺の驛を出て歩き出すと、ルリさんは腕を組んでくれと言いました。僕がためらつていますと「暗いから、キビが惡い!」と言つて、僕のわきの下へ自分の右腕を[#「右腕を」は底本では「右腕へ」]突つこんで來ました。そうして十分以上歩き、僕はすこし息苦しくなつたので、早く一人になりたい氣がして、
「お家は、まだ遠いんですか?」ときくと、
「いえ、もう直ぐ。そら、灯が見えるわ。あれよ!」と言つて、あいている方の手で、まつくらな燒跡の向うにポツンポツンとついている燈火を指しました。「もう此處まで來れば、歸つてくだすつてもよろしいわ。ありがとう存じました」
 その時僕はギクンとしたのです。此處でこのままこの人と別れる。別れれば、もうこれつきりで永久にこの人とは別れることになる。そういう氣がした事も事實です。しかしそれだけではありません。どう言えばよいか――そこで、その燒跡で一人になつてしまうことが、僕には、耐えきれなかつた。寂しいのです。口では言えない位、ジーンと寂しいのです。胸がしめつけられるようになつていました。
 僕がいつまでも返事をせず、動きもしないで突つ立つているのでルリさん變に思つたのか、腕を組んだまま、身體をクルリとひねつて僕の顏を覗きこむようにしました。その動作のため、すこし汗ばんでいるようなルリさんの匂いが、ワンピースの中を這い昇つて、フワッと僕の顏に來ました。トタンに、僕の頭がクラ
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