朝つから何も喰はずだから。なんか拵へてくれよ。
より あいよ。(涙を横なぐりに拭きながら)なんにしよう? 御飯? 鮭のうまいのがあるよ。
留吉 さうだなあ、俺あ、やつぱりうどんがいい。うどんにしてくれ。
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(やがて、志水とより子が、急におかしくなつて笑ひ出す。磯も笑ふ。好意に満ちた明るい笑声である。留吉も釣込まれて笑ふ)
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より あいよ。
香代 よりちやん、私にやらしておくれ。
より いいよ、あんたは其処においでよ。
香代 いえ、私がやる……(と、より子より先に調理場へ行かうとするが、大酔とシヨツクの後なので腰の辺が変になつて、一二歩オコツイて、土間に膝を突いてしまふ。しかし、ムキになつてより子を押しのけるやうにする)私がやると言つたら! (その涙でベトベトの顔が少し真剣でありすぎる)
磯 なんだよ、まあ!
留吉 大げさな、たかが、うどんを煮るのに、なんだ?
志水 アツハハハ、アツハハハハ! アツハハハハ、ハハハ。
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(磯もより子も留吉も釣込まれて笑ふ。香代だけが、ムキな顔付で、しかし、すなほに調理場の方へ)
(笑声。
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