。いくらで住替へる事になつてゐるんです?
香代 (出しぬけに神経的に笑ひ出す)へつ! ハハハ、何をまた! それを聞いて何にするんだ? ヘツ! お前なんかの出る幕ぢや無いよ! 寝呆けたのか! 私の身の代金がいくらだらうとそれがお前さんにどうしたつて言ふんだい! 馬鹿にしちやいけないよ、ハハハ、何を――。
留吉 (ベラベラと気が狂つたやうに喋りながら顔を突出して来る香代の顔を、黙つて張り飛ばす。続けて三つばかり。ヨロヨロとなる香代)……馬鹿! (キヨトンとしてしまふ香代。呆然と立つてゐる)
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(間――遠くを列車の響)
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磯 ど、どうしたんだよ?
留吉 いくらだと聞いてゐるんですよ。
磯 そりや、先方から受取つた金は、まだ三百ばかりだけど、さうさね、内のと近藤さんからの借金など全部合せて丁度七百円――。
留吉 此処に五百円あるんだ。(出して上り端に置く)これで、お願ひだが、住替へ一件の証文は巻いていただけねえだらうか? あとの二百円は、俺あ、キツト此処で稼いで、毎月いくらかづゝでも入れて、なすから――。
磯 ……えゝ、そりやねえ、なんですけど――
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