んた、自分の事考へて見れば――。
香代 いいんだよ! もう一杯おくれ。なあに、どう転んだつて私はもう同じ事だもの、諦らめてしまつたのよ。まあなるべく他人様の邪魔にならぬやうに……。アハハハハ(自棄に笑ふ。酒をあふる)もう一つ、大きいので!
より そんなに呑んでいいの?
香代 いいぢやないか、ケチケチするない。もうお別れぢやないか! 今度いつ又逢へるか解りやしないのよ。(酔つてゐる)
より ぢや、まあ……(注いでやる)しかし向ふへ行つたら、あんまり深酒しちや駄目だよ。
香代 ふん、さう言ふ事を言つたつて、もう手遅れだよ。アハハ、私のする事あ、何に限らず、いつも手遅れだ。ハハ。よりちやん、あんた、私見たいになつちや駄目だよ。人に惚れたら、早く惚れたと言つておしまひよ、手遅れにならぬ内に自分をブチまけておしまひよ、いいかい、こじらしちやいけない。お別れに忠告しとかあ。
より 留吉さんは、どうしてゐるんだらうねえ。
香代 あんな奴の事を言つてんぢや無いつてば! あんな、人で無しめ……私あ志水さんの事を言つてんだよ。よりちやん、お前惚れてんだ。すなほに、惚れてるやうにして惚れなきや駄目だよ。人間
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