、お香代!
[#ここから2字下げ]
(立つて居れなくて地面に坐つてしまひ、号泣する)
(先程から三人の騒ぎにドギモを抜かれてハラハラしながら見守つてゐた轟と津村と伝七が、留吉の此の様子で、気でも狂つたのかと、石の様になつてゐる。ばかりでなく、お雪も利助も留吉の様子にギヨツとする)
[#ここで字下げ終わり]
雪 ……(立つて来つゝ)どうしただよ、兄さん――? どうしたの、しつかりしてよ! (兄の肩に手をかける)
留吉 ……(顔をあげて、妹を見る。はじめ少しキヨロキヨロして、次に妹の顔を穴のあく程マヂマヂと、何か非常に不思議な物を発見した様に見詰めてゐる)
雪 どうしただよ、兄さん? お香代さんと言ふのは誰?
留吉 う? ……うん。
津村 (やつと元気を取戻して)留吉君、そいでだな、斉藤の方の話は――。
利助 (お雪のコメカミのキズから血のにじんでゐるのを見付けて)あゝ、お雪、いけねえ!
雪 あんだよ? (コメカミにさはる)
利助 痛くは無えのか? どれどれ!
雪 あゝにチヨツとすりむいた。
留吉 (その妹夫婦のする事を見守つてゐたが)……利助、……俺あ悪かつた。
利助 ……? あに、いい
前へ 次へ
全93ページ中75ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング