いつ!
[#ここから2字下げ]
(走つて出て来るお雪。幼児に乳をやつてゐた所を飛出して来たと見えて、ハダシに、幼児を抱いたまゝ。その後から伝七)
[#ここで字下げ終わり]
雪 兄さんつ! (駆け寄つて行きさうにするが幼児に気附いて、墓地の草の上にそれをソツと臥《ねか》せて置いてから、留吉の方へ走つて、いきなり兄の手に武者ぶりつく)兄さん、あにをするだよつ!
留吉 寄るな! もう我慢ならねえんだ。
雪 いいから放して! 兄さん!
留吉 俺あいい! 俺あ、どうでもいいんだ! お雪、此奴あお前の事を屁とも思つちや居ねえんだ! 今日と言ふ今日は、此の野郎、どうするか! こらつ! (妹を振りもぎつて、更に利助を掘割の中へ叩き倒す)こん畜生!
雪 違ふ! 違ふ! 違ふよつ! 兄さん、そりや、違ふ!
留吉 お前は引込んで居れ! これでもか!
雪 違ふと言つたら! 兄さん! 違ふつ!
留吉 違ふ? 何がだ? 何が違ふんだ?
雪 兄さんにや解らねえんだ! 私等の事あ、兄さんにや解らねえんだ! 此の人が死んだら、私も生きちや居ねえだよ! 好きなんだよ! 此の人だつて、心《しん》から私のこと好きなんだよ!
前へ
次へ
全93ページ中71ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング