たとて、無いのに……。質屋さ持つて行く物だつて、もう。
利助 甲斐性の無えアマだ、何とか都合して来う! 早く行け! 行かねえかつ!
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(炉にくすぶつてゐた木の根つこを、鷲掴みにして立つて行く)
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雪 だどもさ……(木を投げられた場合に背中の児に当らぬやうに肩口へ手を廻してかばひながら、徳利を捜す)そんな、あんた……行くよ。
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(襖が開いて、留吉が出て来る。寝起きの晴れ晴れとした表情)
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留吉 やあ、お早――(その場の様子の変なのに気が附いて、チヨツト妹夫婦を見較べてゐる。利助炉の傍へ戻つて来てムツツリ坐る)……お早う。(戸外を覗いて)いけねえ、もうお早うでも無えか。ハハハハ。あんしろ、此処に戻つて来て以来、永い間のくたびれが出たと見えて、いくら寝ても寝足りねえ。まるで身体が溶け込んで行くやうに眠いんだ。(妹が出してくれるタオルと塩を受取つて、土間へ降りる)おい……(表のカケヒの方へ出て行き、顔を水で一二度パシヤパシヤやる)
利助 ……早く買つて来い!
雪 へえ。……
留吉 国の景色は綺麗だなあ!
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