話しかけられたのでは無いので又、コトコト炊事を続ける)
利助 ……轟は、いつ頃来た?
雪 さうだな、伝七さんが来た直ぐ後だつたから、十時頃だよ。
利助 なんと言つてゐた?
雪 まだ兄さん寝てるからと言つたら、後で又来るから――
利助 そりや伝七だらう? あんなドン百姓に俺あ用事は無えぜ。轟だ。
雪 轟さんは、なんにも言はねえだよ。
利助 ……さうか。フン、野郎、気を持たせてゐやあがるんだ。
[#ここから2字下げ]
(間)
[#ここで字下げ終わり]
雪 ……ねえ、あんた。……もういい加減に製板の事、諦らめておくれよ。
利助 ……又、言ふか!
雪 でも、どうせかないつこ無えもの。
利助 鮎川利助、あんの為めに十年もの間、山をやつて来たと思ふんだ!
雪 んでもさ、かうしていくら踏ん張つてゐても行く先きの見込みは附かねえしさ。それに坊やだつて、あんた。――兄さんに頼んで田畑をするなり――。
利助 馬鹿! 貴様、そんな事考へるんなら、一人で勝手にしろ! 今日限り離縁だ! 俺あ百姓は嫌ひだ、今更タンボ這ひずり廻る位なら、首いくくつて死んじまわあ!
雪 ……それが嫌なら、東京さ行つて二人で稼ぐなりさ
前へ
次へ
全93ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング