や無いぜ。
志水 だからかうして何とかして貰はうと思つて一所懸命にやつてゐるんぢやないか。
辰造 何とか「して貰ふ」か。一体に気が長過ぎるよ。
志水 又馬鹿を言ふ。考へて見ろ、この問題に就いちや、こないだからあれだけ俺達が口をすつぱくして説きつけても、百人余りも居る臨時工の中のやつと三十人位が「うん」と言つてくれただけだよ。今夜だつて、口先だけぢや皆来るとは言つてゐたが、俺あまあ四十人も来れば上出来だと思つてゐるんだ。なんと言つても渡り者が多いから、まとまりにくいんだ。
辰造 渡り人足なんぞ打つちやつといて、俺達だけでぶつ始めりやいいんだ。
志水 無茶言やあがる。そんな風に行きや苦労しねえよ。御時世が違わあ。
辰造 御時世? ぢや、こんな御時世を俺達が拵へたのか? え、おい? 俺達あな、うぬが命を張つて、一両あまりの日当でその日暮しをして居れれば、嬉し涙をこぼしている人間だぜ。それが、どこがどうしたれば、御時世なんだ! どこの何様が、こんな御時世を拵へたんだ? 笑はすない!
志水 そんな利いた風な口を利くんだつたら、会社の人事課の窓口に行つて喋つて見ろ、トタンにお払ひ箱だ。
辰造 おう
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