ティに近い。もちろん、それでもあった方がよいにはよい。)
 それが持てないほど、われわれの職業意識はひくく、現実にたいする感覚は分散的で、集中力を欠いているといえるでしょう。原民喜のような人が、あと百人ばかり現われれば、あるいはこうでなくなるかもしれません。さしあたりは仕方がない。一人びとりが自分だけを頼りにして自由競争の波をしのいでいくほかに方法はありません。実情においては原民喜と本質的に同じ状態――懐中に十円サツを一枚もっただけで、そして電車にひき殺されないようにして、われわれは歩いていかなければならないのです。なさけなかろうと、あろうと、これがわれわれの置かれている情況です。
 さて、かかる情況のなかで抵抗が論じられています。他からくわえられる、またはくわえられるであろう政治的な力や軍事的な力や文化的な力にたいするレジスタンスが論じられているのは、かかる情況のなかにおいてです。論じられるのはよい。どんな情況のなかででも、重大な問題ならば論じられる方がよいのです。ただそれが、われわれが現実的に置かれている情況と切りはなされた形や場で、ただ一般的に、そして一般的にだけ論じられていると
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