だしてみれば、あるいはご教示をえられるかもしれないし、それが他の人びとのためにも多少はなるかもしれないと思いました。そのためにこれを書きます。
 まず、ごく小さいことをおたずねします。これはしばらくまえにある新聞にも書きましたが、昨年翻訳出版されたアメリカの評論家ストーン著「秘史朝鮮戦争」についてであります。
 その本の表紙の帯紙に、あなたは「朝鮮戦乱勃発のその日から、私は(何かかくされている)という疑惑に悩まされつづけてきた。だが私の疑惑は正しかった。(中略)この本を読んで目がさめないものを白痴というのであろう」と書いていられます。そのことなのです。たかが帯紙に印刷されたスイセン文をトッコにして、あげ足を取ろうとしているようにとられては困ります。私にしましても「帯屋」だとか「チンドン屋」などという言葉があることは知っていまして、広告用の文章にたいしてそうムキになるのは非常識なことは承知しているのです。しかし、いくらそういう場所であっても、あなたが無責任なことを書かれるはずはないと私は思いました。
 それに、ご文章の調子も烈しく、決定的だったし、かりにもこれを「チンドン屋の文句」に似たようなものとしてかるく見すごすことができませんでした。つまり、かねて評論家としてのあなたのご発言を、私がかなりの程度まで信頼しているがゆえにしたことですから、あなたは許してくださらなくてはいけません。それに人間はだれでも、十分に準備し慎重に打ちだした大論文などよりも、割に不用意にヒョイともらした片言や小文章の中に、ホントの意見や姿を示すこともあることを知っているために、このようなものを割に重要視する習慣を私はもっているのです。
 事実、私は右のあなたの文章を読んでよろこびました。というのは、私は朝鮮戦争勃発以前から、朝鮮の姿に注目しつづけており、朝鮮人の友人もかなり持っているので、戦争勃発のときには、大きなショックを受け、それだけに、勃発のときの事情については、私なりの情報をあつめたりして、ある程度の認識をもっているという自信はありますが、しかし、これこれだと断言できるほどの知識はいまだにもてないでいます。そこへ、あなたほどの人が、こんなにハッキリ言っていられるのだから、この本を読めば、すべてが明らかになるにちがいないと思ったのです。
 念のため、あなたの右の帯紙のご文章を、私は「朝鮮
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