に早くおいたですけっど、おら、あれからお咲坊にやる飴ば買いに宿《しゅく》まで一走り行ったで、そんでおそくなった。(言いながらかついでいる物を土間の隅にチャンと置き、モッコから包を取出す)アハハハ、これだ嬢様。
お妙 まあ、それはご苦労でがんした。お疲れさまだ。あの、ここにチャンと湯はわかして置きましたから……。
段六 ああによ、お前様、疲れはしねえ。人はどうだか知んねけえど、私あタンボさえやってれば大してくたびれはしねえし、真壁にいても、世間は戦争だ天狗だとワアワアいって田畑あ作ってもどうなることだなんどと騒いでいる中で、おらだけがタンボやっているで、人あ馬鹿にします。ハハハハ。今日も吉坊や辰公なんどに畑仕事教えながらいうて聞かせてやったでえす、百姓がタンボしねえで誰がすっだ、ってね。ハハハ。いや、ここの子供衆はみんなよくやるて。辰公はじめ四、五人は麦の中すき[#「すき」に傍点]なども、もうチャンと出来る。おらあ見ていて哀れなやら、嬉しいやら、毎日畑じゃ泣いたり笑ったり、埒もねえ話だあ。
お妙 そう! まあねえ! みんなあなたのお蔭で。
段六 ああによ、皆が身寄りもハヨリもねえ身の上で
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