その一人の舎弟で仕置場側の街道で願書に名前をいただきてえと泥っぽこりに額をこすりつけていた男、現にお前さんのすそ[#「すそ」に傍点]にすがってお情け深いことをいって貰った……。
加多 そうそう、思い出した。たしか兵藤や甚伍左が一緒であった。そのときの……?
仙太 そうでえす。そのときの百姓仙太郎のなれの果てだ。そのときのこともあれば、今夜の恩もある。俺あご恩は腹にしみているんだ。そしてあのときも、私の出した奉書にあんたは天狗党一同と書いて下すった。去年あたりから小耳に挟んだ噂もある。いざといやあ筑波だそうだって、村の子供だって知っていらあ。そこんところへ持ってきて今夜ここで出会ったあんた方だ。一目見て、こいつは! と思わねえ奴が阿呆だ。大概何をしにきていなさる位察しがつきやす。面と面と突き合わして、何だかだと話がからんでながくなりゃ、これはこう、あれはああと、加多さんじゃござんせんか、仙太郎か、てなことでお互いに山ん中ですれ違った仲では済まされなくならあ。そうなりゃ俺あいいが、あんた方の折角のことに邪魔になるだろうと考えてソソクサ行こうとしたのが有りようだ。ハハハ、どこが違うと言われた
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