仙右衛門の呻き声。これを聞くや仙太思わず立上る。次にヘタヘタしゃがむ)
段六 仙太、もう戻ろうてや。おい仙太!
[#ここから2字下げ]
(言っている間に、再びビシッ! と音がして他の声が「ふたあーつ」と算える声、呻声。この二ツ目の声で仙太自分が打たれたようにウーンと唸って路上に突んのめってうつ伏してしまう。以下鞭打の響きごとに彼は自分の背に痛みを感じるようにうつ伏したまま身もだえをする)
[#ここで字下げ終わり]
鳥追 あっ! あっ! 見ちゃおれやしない。あれっ! 丈夫でもなさそうな人だのに。どうにかならないのかねえ! いくつだろう?
馬方 百叩きだて。しまいまで身体あ持つめえの。また、今度の叩きに廻っている手先の奴あ力がありそうだもんなあ。馬だ、まるで。なあ、全体がよくよく運の悪い人だぞ、仙衛ムてえ人は。いまどきこのせち辛えのに上納減らしの不服や相談|打《ぶ》たねえお百姓なんど一人もいるもんじゃねえさ、そのうえに新田に竿入れやらかそうてんだものを。選りに選って御見廻《おみまわ》りなんどに見っかるちうのが、よくよくのことじゃあ。始めから終えまで、運の悪いというもんはしようのねえこんだ。
前へ 次へ
全260ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング