もいないと思って出て来たらしく、音に驚いて振向いた仙太の姿を一目見るや、ギョッと立止る)
甲 おおっ! やっこ、此処にいやがったな! さ、出せ、寺と場銭をスッカリ出せっ! お、俺あ、このほり[#「ほり」に傍点]物で見知っているだろう、場で中盆を預かっていた葛西の新次だ。そいつを持って逃げられた日にゃ渡世の顔が立たねえのだ! さ、出せといったら黙って出せ! (仙太返事をせず)……出さねえな? バクチ打ちの作法も冥利《みょうり》も忘れた野郎だ、よしっ! 命あ貰ったから覚悟しろっ! (と右肩越しにドスを抜くやバッと仙太の方へ斬り込みそうにするが、及び腰になって首を下げてすかして睨んでいる仙太の沈黙に気押されて、却って一、二歩後すざりして、刀を上段に構え直す)……ウッ! (今度は再び中段に構え直す。直すや思い切って切先を少し下してセキレイの尾のようにヒタヒタと上下に揺りながらツツツと二、三歩でて来る。両眼が血走って釣上ってしまっている。と同時、気合いも掛けないで仙太郎、刀を抜いたのと踏込んだのと殆ど一緒、右真向に斬りつける。それがタタッと下りながら、あわてて刀を上にあげて防ごうとした甲の刀と右
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