る。
 ダダダと走って来て、丁度ヒョイと振向いた喜造の胸に、頭突《づつき》をくれんばかりに迫る。おッ! と叫んで、とっさにバッバッと五、六歩、舞台袖のところまで飛退る喜造、突出した抜身越しにすかして見る)
喜造 おう、やっこ、待てっ!
男 (見すましてチョッと立止った後)ガッ! (と叫んでドッと体当り。持った刀を揮う暇もなくワァッ! と叫んでデングリ返った喜造、はずみで足を踏みすべらしドドと音がして悲鳴を上げながら奥の谷へ転げ落ちる。男はそれをよくも見ないで、小走りに右手の方へ舞台を横切りかける。既に今井は岩蔭に、加多は竈の凹みに身をかくしてこの様子を見ている。男、下火になっている焚火をヒョイと認め、足を止め、前後を見廻している。やがて何と思ったのか、ウムといって火の傍に包みを下し、それに腰をかけ、眼は油断なく尾根の方と峠路の方をかわるがわるすかして見込みながら、頬被りを取り、肩先を拭う。真壁の仙太郎である。
 間――。
 右奥からザザッと音を立てて走り出て来る博徒甲。これはまた思いきりよく素裸、全身に刺青をしたやつに腹帯下帯だけで散らし髪、ドスは下緒で斜めに背中にくくりつけている。誰
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